担当:七野 成之(s_shichino{a}rs.tus.ac.jp)
上羽 悟史(ueha{a}rs.tus.ac.jp)
組織常在線維芽細胞に着目した肺線維症病態メカニズム研究
臓器線維化は、I型コラーゲン (Col I)を主体とする細胞外基質(ECM)が臓器に過剰沈着し、重篤な臓器の機能不全をもたらす進行性かつ不可逆性の難治性疾患です。薬剤、外来性異物、感染症や自己免疫などを原因とする慢性炎症の過程で繰り返される組織傷害と修復の終末像と考えられていますが、一方で抗炎症剤が奏功しない症例も多く、予防・治療法ならびに病態形成機序は確立していません。私たちは、Col IなどのECMを大量に産生することで線維化に決定的な役割を果たしている線維芽細胞、とりわけ線維化の過程で顕著に増加する筋線維芽細胞を重要な治療標的と考え、線維芽細胞を特異的に検出するレポーターマウスでbleomycine誘導肺線維症モデル・線維芽細胞の経気道的移植モデルを作成し、その起源と動態を明らかにしました。これまでの解析で、肺線維化モデルの活性化線維芽細胞の多くは、骨髄由来の線維細胞、上皮間葉転換、血管周囲細胞ではなく、組織常在線維芽細胞に由来することを見出しました(下図1)。また、正常肺および複数の肺線維症モデルの線維化肺から調整した線維芽細胞について、次世代DNAシークエンサーを用いたtranscriptome・ネットワーク解析により、マウス・ヒトの肺線維化に共通する遺伝子signatureを見出すと共に、その中心となる防御的ハブ転写因子としてLXR-Srebf1経路があることを見出しました。実際に、LXR agonistの治療的投与により、ブレオマイシンおよびシリカ両モデルにおいて、肺線維芽細胞活性化・線維化進展が抑制されることも見出しました(下図2、論文投稿中)。これら新たな知見に基づき、臨床サンプルでの検証を行い、LXR-Srebf1経路を始めとする脂質代謝関連分子を標的とした、ヒト肺線維症の予防・治療への応用を目指しています。
包括的1細胞遺伝子発現解析による次世代の炎症・臓器線維化研究
従来の免疫学的・病理学的アプローチに基づく炎症研究アプローチは、組織全体もしくは数百〜数万個の細胞からなる細胞集団における質的、量的変化を平均化して捉えるものであり、未病状態、すなわち局所的にごく一部の細胞に異常が生じ、その異常が周辺細胞にも影響を及ぼすことで生じる細胞社会の変容や、その複雑な動作原理を解明することは困難でした。この限界を克服すべく、私達は数千から数万個の単位で個々の細胞の遺伝子発現プロファイリングを可能とする、マイクロデバイスを用いた包括的1細胞遺伝子発現解析技術を開発しました。本新規技術を基盤とした次世代の炎症・臓器線維化研究として、私達は新学術領域研究「予防を科学する炎症細胞社会学」を平成29年度より立ち上げました。本領域では、包括的1細胞遺伝子発現解析技術に基づいた、未病状態におけるごく少数の異常細胞の捕捉、炎症組織を構成する個々の細胞が持つ性質と役割の解明に加え、情報科学との融合により、多数の細胞間相互作用モデルの構築を目指しています(金沢大学 橋本真一教授との共同研究、下図)。さらに、上記細胞間相互作用モデルに対し、各1細胞の時空間動態や組織内局在の情報を加えることで、炎症組織を1細胞単位で立体的に再構築できると期待しています。