松島 綱治 教授からの
メッセージ
私達の教室は、サイトカイン並びに白血球走化性因子ケモカインという分子ウィンドウ(窓)を通して炎症・免疫反応の機序を解明し、炎症・免疫疾患の新規予防、病態改善、治療戦略を提供することを目指している。私が30年余前に精製し、アミノ酸配列を決定したヒトIL 1 betaは自己炎症性疾患という新しい疾患概念をもたらし、今まで治療不可能であった一連の疾患もIL 1阻害剤により劇的に治ることが判明した。また、IL 1の阻害は炎症阻害を通して糖尿病、動脈硬化症のみならずがんの予防にもつながる可能性が示されている。一方、私が米国National Cancer Institute, NIHに主任研究員として在籍中(1982−1990年)、Dr.吉村禎造と一緒に発見したケモカインのプロトタイプ、interleukin-8(CXCL8)とMCAF/MCP-1(CCL2)は、その後のケモカインファミリー分子の発見に繋がり、炎症・免疫反応時の白血球サブセット特異的組織浸潤機序が説明できるようになった。古くからの固定組織標本を観て炎症・免疫反応を語る病理学・免疫学から、場と時間軸を加味したダイナミックな白血球動態を伴う動的免疫学の時代に移行した。さらに、1996年から15年越しで協和発酵キリンと開発した抗CCR4抗体は、ヒト成人型白血病治療薬として2013年に日本で認可され、欧米でもCCR4陽性のセザリー症候群、Mycoides FungoidesなどのT細胞リンパ腫に認可されようとしている。私達の研究のゴールは、研究を通じて普遍的生命現象の根幹に関わる機序を解明する、もしくは疾患予防・病態改善・治療につながる重要な標的分子を提供することと、それに基づくワクチン・抗炎症剤・免疫制御剤・感染症・がん治療薬を開発することである。2018年4月より東京大学から異動し、20名余の研究員と共に東京理科大学の新たな研究室にて再出発した。
現在・今後の教室の主な研究テーマ
- 慢性炎症に伴う臓器線維化の分子・細胞基盤、慢性炎症の遷延化機序の解明:新学術領域研究では、多様な細胞から構成される炎症・免疫組織をsingle cell transcriptome解析技術を用いて一細胞レベルから炎症社会を見直し、情報科学との連結による炎症社会の数理科モデル構築。
- 現在治験進行中のIT1208抗CD4抗体の抗がん剤としての開発のみならず、その強力な免疫活性化機序の解明を図る。担がん、加齢個体でのCD4Tリンパ球の一時的枯渇後のT細胞clonarity/diversityの変化・回復、T細胞受容体から抗原エピトープを推定することへの挑戦など。
- 白血病の究極的治療としてのGVL/T効果を期待した同種造血幹細胞移植をより安全で有効なものにするためのCD4抗体の適応。
- ケモカイン受容体シグナル制御分子、フロントの機能解析ならびにフロント阻害薬の開発研究 。
- Alarmin, HMGN-1の免疫チェックポイント抗体との併用臨床治験実施のみならず、その免疫学的作用機序の解明など。
私は、研究室の門戸をたたく、意欲ある誠実な若者にはできるだけの機会を与えたいと思っている。出身大学、学部、研究歴は問わない。オリジナルで普遍性を持つ、重要な仕事をしてもらいたいと思っている。どのジャーナルに論文が出せるかではなく、研究の質と当該研究(開発)分野に対するインパクトの大きさで判断したい。自分の仕事を通して、教科書の一行でも書き換えれば大きな仕事と言える。あせらず、知識、技術を広く身につけ、慎重に粘り強く仕事をする大器晩成型を求める。
アカデミアにおける研究職は、おそらく最も創造的で自由度のある仕事であると思うが、当然社会との関わりを持ちながら研究活動を行うが故に、常識と良い仕事をするという自覚を持って研究に励んでほしい。
赤痢菌の発見者、志賀潔の言葉に「先人の跡を師とせず、先人の心を師とすべし」とある。
1人でも多く、世界に羽ばたく優秀な研究者を同僚から輩出することができれば幸せである。